(午前中の晴れた空。)

(城戸邸の庭。)

(大樹の下に座って本を読んでいる瞬。)

邪武 「瞬」

(瞬、顔を上げる。)

邪武 「お前、年中ここにいるなァ」

(瞬の隣りに腰を下ろす。)
邪武 「ま、オレも結構気に入ってるけど」

瞬 「知ってる?」
   「ここにいるとね、時々ピアノの音が
    聞こえてくるの」

邪武 「…!」

瞬 「ほら、一階のグランド・ピアノ」
   「沙織さんじゃないのは確かだから、
    誰が弾いてるのかわからないんだけど」
   「メイドさんたちの中の誰かかな?」

邪武 「…ふぅん。」

瞬 「ものすごーく、綺麗な音」
   「一体どんな人が弾いているんだろうね」

邪武 「…さ、さあな」

瞬 「今度、見に行ってみようか」
邪武 「それは…」

沙織 「邪武!」
(瞬と邪武の絵に台詞のみ。)

(歩いて来る沙織。)

邪武 「お嬢様…」

沙織 「邪武、お願いがあるのだけど…」
    「ちょっと、来てもらえるかしら?」

邪武 「え?」
    「ええ…あの、オレで…よろしければ」
沙織 「ありがとう」

邪武 (瞬に。) 「瞬は?」
沙織 「あら、いいのよ、瞬はそこで本を
     読んでいたのでしょう?」
    「一人で充分だと思うから」

邪武 「そうですか」「じゃあな、瞬」

瞬 「う…うん…」

(瞬の視線で、去っていく沙織と邪武。)

(更に遠ざかる。二人並んで楽しげに談笑を始めた。)

(その様子を見ている瞬。)

(瞬、読書を再開せず、膝を抱える。)


(邸内の廊下。内輪の人しか使わないような、狭くて一寸
暗い通路を歩く瞬。)

(瞬の後ろから、早足で追いついてきた沙織。)
沙織 「瞬」

(両手にタオル一枚と缶ジュースを2本抱えている。)
沙織 「ちょうどよかったわ」
    「悪いけど、これ邪武に渡してもらえる?」
    「これから私が行こうと思ったのだけど、
     生憎急用が出来てしまって…」

瞬 (荷物を受け取る。)
   「いいですけど…」「邪武は…?」

沙織 「藤棚の傍」「知ってるでしょう?」
(言いながら、もう駆けていっている。)
瞬 「はあ…」

ザクッ (土にめり込むシャベル。)

(公園にあるような、藤棚が屋根になっている木のレスト・
スペース。その向こうで、桜の大木を地面に植えていたら
しい邪武。)

(その姿を見つけた瞬。)

瞬 「邪武…」

(瞬、ゆっくりと歩いていく。)

邪武 「ん?」

(瞬1コマ。全くの無表情。)

邪武 (木の根元の土を均しながら。)
    「よォ、瞬」「見ろよコレ」

瞬 「何…してるの?」

邪武 「何って、お前、コイツをここに
     植えてたんじゃねえか」
    「お嬢様が持って帰っちまったんだよ」
    「道路工事の為に切り倒されるところ
     だったんだと」

    「まったく、優しいよなァ沙織お嬢様は」
    「春になったら…」

瞬 「……にそれ…」
(俯いて、聞き取れないような小声でボソッと呟く。)

邪武 「え?」

(瞬、顔をあげて、いきなり大声で。)
瞬 「なにそれ!?」
   「バッカみたい!!」

邪武 (面食らう。)
    「…は!?」「し…瞬………!?」

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