瞬 「……エッ!?」 (我に返る。)
「え…? あ…あの」
「ぼ、僕、何言って……」
(邪武。まだ呆気に取られている。)
瞬 「ご…っ、ごめん」
「気にしないで…」
「どうしちゃったんだろう、僕…」
(手に持っていた物を差し出し、無理矢理笑顔を作って。)
瞬 「こ、これ沙織さんが…」
「じゃあね…!」
(手渡すなり、逃げるように走り去る。)
邪武 「あ、ああ…」
(邪武の目線で、去っていく瞬。もうかなり遠くまで走って
いってしまっている。)
(邪武1コマ。)
(夕方。)
(邸内の一室。)
(シャンデリアの照り輝く天井。)
(格調高い調度品の数々。)
(卓上にきちんとセッティングされた食器、花、燭台等。)
(テーブルについている普段着の邪武と瞬。)
(目を伏せて黙っている瞬。)
(頬杖を付いて、何処を見ているのかわからない表情の
邪武。)
辰巳 (部屋に入ってきて。)
「おっ、お嬢様…!?」
(何気なく、声のした方を向く邪武と瞬。)
(同じ部屋の一角。かなり高い脚立の上に立って、沙織が
壁に油絵の額を掛けようとしている。)
辰巳 「そ、そのような事は私どもが…!」
(邪武と瞬に向かって。)
辰巳 「お前たちも黙って見てないで…」
沙織 (振り返って、楽しげに。)
「いいのよ辰巳」
「自分で描いた絵だから自分で飾りたいの」
「これ一枚描くのに一年半も…」
(パンプスを履いたままの足元がぐらつき、)
(脚立の上から落ちる沙織。)
沙織 「きゃあ!?」
辰巳 「おっ、お嬢様!!」
ドサッ (描き文字と集中線だけのコマ。)
(ギュッと眼をつぶっている辰巳。)
(恐る恐る片目を開いてみる。)
邪武 「…と」
(沙織を両腕でフワリと抱きかかえている邪武。)
(1コマ瞬のアップ。)
沙織 「あ、ありがとう邪武」
「ごめんなさい、私ったら…」
(瞬。無表情で見ている。)
(瞬の目線で、邪武と沙織。そのままの体勢で、二人で顔
を見合わせて笑っている。)
(瞬のアップ。ほんのわずかに表情が翳る。)
(立ち上がり、まだ喋りながらテーブルにつこうとしている
沙織と邪武。)
ガタッ (瞬、殆ど無意識に席を立って、)
(そのまま無言で出入り口の方へ歩いていく。)
ガチャッ (ドアを開ける瞬の手。)
沙織 「あら、どうしたの瞬?」
「もう夕食が…」
バタン (大きな音を立てて扉が閉められる。瞬は部屋を
出ていってしまった。)
沙織 「瞬…?」
(邪武1コマ。)
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