瞬 「…ひっく」 (そのまま静かに泣き始める。)
邪武 「ああっ、どいてなホラ」
「片付けるから」
(ガラスの破片をつまむ邪武の手。)
瞬 「…っく」「うう…」
邪武 「そ、そんなに気に入ってたのかコレ?」
「弱ったな…」
瞬 「…で、出ていって……くれな…い?」
(邪武1コマ。)
瞬 「君の顔なんて、見たくないんだ」
―――お願い、もう僕の目に映らないで
「僕に構わないで…」
―――その声で話しかけないで
「僕ね、アンドロメダ島に戻ることにしたから」
邪武 「………しゅ…」
(俯いたままの瞬。)
邪武 「オ…オレはな……」
(瞬1コマ。)
邪武 「オレは…」
(何か言いかけて止まってしまう。)
瞬 「出てって」
「もう僕のこと放っておいて…!」
邪武 「…ごめんな」
「オレ、何の役にも立てなくて」
「ほんとに、ごめん…」
(部屋を出て行き、)
パタン… (扉が閉まる。)
(瞬、やっと顔を上げるが、もう邪武はいない。後悔の念
が湧き起る。)
(フラッと立ちあがって、)
(ドアのところまで走る。)
(ドアノブを握って開けようとする。)
(が、その手が止まる。)
(自分の感情を抑え込む瞬。)
(扉は開けず、その場に座り込む。)
(夕暮れの空。)
(大きなトランクを下げて邸から出てくる瞬。)
瞬 ―――沙織さんには後で手紙を書こう
(広い城戸邸の敷地内を歩いていく。)
瞬 ―――だけど何て書いたらいいんだろう…
(邸の部屋の一つからピアノの音。)
瞬 「…!」 (立ち止まって振り返る。)
―――この音
いつものピアノ…
―――やっぱり綺麗な音…
こんなにも澄み切っていて、
それでいてとても温かい
――― 一体どんな人が弾いていたんだろう
きっとこの音色そのものの心を持った人
なんだろうな
(瞬1コマ。)
ガシャッ (トランクをその辺に無造作に置く。)
瞬 ―――知りたい
―――会って一言お礼が言いたい
(音の鳴る方へ駆け出していく。)
瞬 ―――何故だろう、
そうしなきゃいけない気がする
(グランド・ピアノがある一階の広い部屋。弾いている人は
シルエットのみしかわからない。)
(廊下を駆けてくる瞬。)
(一つの扉の前までやって来て、)
コンコンコン (ノックする。)
(返事は無い。ピアノを弾き続けている。)
コンコンコンッ (もう一度ノックする。)
(やはり返事は無い。)
瞬 ―――そうだ…
(外からの絵で、庭に面した大きなガラス窓。窓というより
壁という感じ。白いカーテンが弾かれている。)
(外に出て、カーテンの隙間から中を覗いてしまう瞬。)
(瞬1コマ。)
(瞬の目線で、ガラス越しに覗いた室内。絵はまだ誰が弾
いているのかわからない。)
(瞬の両目のアップ。)
瞬 ―――う…うそ……
(ピアノを弾いていた人物が瞬に気付いて手を止め、立ち
上がる。)
瞬 「あ……」
(椅子から立ち上がってじっとこっちを見ている邪武。)
瞬 ―――邪武――
邪武 「瞬…」
次頁へ