(ガラス戸を開けた邪武。白いカーテンが風にはためく。瞬
は固まってしまっている。)
(二人共部屋の中に入っている。邪武はピアノの傍に立ち、
瞬はテーブルセットのソファに座っている。)
瞬 「き、君だったなんて…」
「君が弾いていたなんて…」
邪武 「笑いたけりゃ笑ってもいいぜ」
瞬 「そっ、そんな」
邪武 「……………」
瞬 「…あ、ゆうべは、その、ごめんね」
「僕、あんな態度…」
「みんな君のおかげなのに」
「君はいつも僕の傍にいて、
支えになってくれたのに」
「それどころか、僕はわからなかった」
「ピアノ、弾いてるの君だってわからなかった」
「全然わからなかったなんて…!」
(邪武1コマ。)
瞬 「どうして…わからなかったんだろう」
「音の主が君だって、僕には
どうしてわからなかったんだろう」
―――自信、あるのに…
どこの誰より、僕がきみを…
邪武 「確かに、音を聞けばわかりそうなものだよな
誰が弾いているのか」
「ま、オレのピアノなんて
その程度のものだってことだろ」
「別にどうでもいいよ、おふくろが弾いてたから
自然と覚えただけなんだ」
瞬 「…ちがう」
邪武 「エッ?」
瞬 ―――君は、わざと自分を殺してる
(邪武、大きく1コマ。)
瞬 ―――きっと技術は完璧なんだ
音よりも速く動ける指と
精妙な世界で力を制御出来るセンスを
持っている筈だから
―――ただ、君を感じないだけ…
「もう一度、弾いて」
「今度は君の顔が見えるように弾いて」
邪武 「瞬…」
瞬 「お願い」
(邪武、仕方ない、というカオで再びピアノの前に座る。)
(鍵盤の上にかざされた、黒いレザーグローブの両手。)
(邪武、ピアノを弾き始める。)
瞬 ―――ショパンの幻想ポロネーズ
(ピアノを弾く邪武。)
(ピアノの音が流れる部屋、全景。)
瞬 ―――綺麗な音…
―――でもわからない
やっぱり君がいない
どこにもいない…
(じっと邪武を見る。)
瞬 ―――君は、誰…?
―――何を伝えたいの?
ジャン (突然鍵盤に叩きつけられる邪武の両拳。)
(瞬1コマ。)
邪武 「ダメだ!!」
「そんなの無理だ、出来っこない!!」
「知りたくないんだ…」
「考えたくもないんだ…」
「どうせオレは自分が嫌いなんだよ」
―――非力で…意気地無しで…
(ヤケになって怒鳴る。目に涙。)
邪武 「嫌いなんだ!!」
「大嫌いなんだよ!!」
「もういいだろう!?」
「お前こそどうしてわかってくれないんだよ!?」
(瞬、立ちあがる。)
瞬 「ど…どう…して……?」
「どうしてそんなこと…」
「だって…」
邪武 「何も出来なかった…」
(瞬1コマ。)
邪武 「何の役にも立てなかった…」
―――オレだって聖闘士なのに
―――お前たちが女神と地上を守る為に
戦っている間…
「最低だ」「聖闘士なんて名ばかりの…」
パン (瞬の手が邪武の頬を打つ。)
瞬 「やめて!!」
(邪武1コマ。)
瞬 「どうして…」「やめて…」
「そんな風に言わないで」
「僕の好きなひとのこと、悪くいわないで」
(邪武1コマ。一瞬、何を言ってるのか理解できない。)
(瞬、ハッとする。口が滑ってしまった事に気付く。)
邪武 「………瞬?」
瞬 「そ…、そうだよ…」
「好きだよ…」
「僕は、君が好きだ」
次頁へ