(雪の降る海辺。)

邪武 「いない…」「絶対ここだと思ったんだがな」

(コンクリートの防波堤を通っている管状の穴の中に猫と
一緒に隠れてうずくまっている瞬。)

(邪武、その場を通り過ぎて行ってしまう。)

(雪の降り続く街の中を駆け回っている邪武。)

(その他、瞬が普段よく行く図書館や喫茶店もあたってみ
る邪武。)

(雪がうっすらと積もった街。かなり暗くなっている。)

(再び海岸沿いの道路を歩く邪武。)

(一寸立ち止まって海を見る。)

ミーッ ミーッ ミーッ (下の砂浜から仔猫の声。)

(邪武1コマ。)

(砂浜に続く階段を降りていく邪武。)

(防波堤の穴の中で倒れ伏している瞬。)
邪武 「瞬!!」

    「瞬!!」
(瞬、目を開ける。)

(一面真っ白な視界に、)

(ユニコーンが現れる。)

邪武 「瞬!!」
(瞬の目線で、やって来たのは邪武。)

邪武 「まったく、なに寝てんだよこんなとこで…」
(穴から引っ張り出して抱き起こす。)

邪武 「…!?」

(瞬の額に手を当てて。)
邪武 「うわっ、何だこれ」
    「お、お前…これ思いっきり
     ヤバイじゃねえかっ!!」

仔猫 「ミューン…」
(瞬を背負う邪武。)

瞬 (顔が火照って眼が潤んでいる。)
   「…どこ、行くの?」

邪武 「どこって…、うちに帰るに決まってんだろ」

瞬 「なあんだ…」
邪武 「なあんだじゃねえっ!」「バカ!」

瞬 「………吐きそう」
邪武 「マジかよ」

(瞬を背負って浜辺を歩いていく邪武。猫が後に付いて行
く。)

(城戸邸。)

(瞬の部屋。ベッドに寝ている瞬。その傍らに、医者、看護
婦、邪武、城戸家のメイド一人。)

医者 「…そういう訳だから、心配は要りません」
    「それにしても、あれ程丈夫な瞬君が…」
    「近頃何か特別変わった事でも
     あったのかな…?」

邪武 「………」

医者 「いやいや、たまにはこんなこともあって当然」
    「生身の人間なのだから」
    「それじゃ、お大事に」
    「何かあればまた電話して下さい」

邪武 「お手数お掛けしました」
    「お車までお送りします」

メイド 「あ、私が」
邪武 「すみません」

(邪武だけが部屋に残った。)

(邪武1コマ。瞬を見る。)

瞬 「…んん」

邪武 「大丈夫か?」
    「おそらくストレス性の急性腸炎でしょう、だって」

瞬 「カッコ悪ぅい……」
邪武 「そんなもん今更わかったことじゃねえだろ」

瞬 「僕、全然平気なのにな…」
   「だって、誰にも負けてあげる気は無いよ」
   「約束…したんだもの」

(邪武1コマ。)
ジュネ ―――他の誰にも出来なかったことよ

邪武 「ちゃんと覚えてるさ…」

瞬 「うん」
   「ごめんね、それ、顔…」

邪武 (まだ顔に薄っすらと殴られた跡が。)
    「次からは手加減してください。」

(瞬、申し訳無さそうに微かに笑う。)

邪武 「じゃあな、しばらくそのまま寝てな」

    「そのうちまた来るよ」
(扉の方へ歩いていく後ろ姿。)

(瞬のアップ。邪武が部屋を出ていくまで背中を見つめ続
けている。)

(廊下に出た邪武が静かにドアを閉める。)
瞬 ―――誰にも…渡さない―――

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