(朝。城戸邸正門の前に立っている瞬、邪武、ジュネ。目
の前にタクシーが一台停まっている。)
ジュネ 「じゃ、またね瞬」「身体に気をつけて」
瞬 「もっとここにいればいいのに…」
ジュネ 「フッ、まったく現金な子だね」
「生憎私も色々忙しいんだよ」
「それじゃ、沙織さんによろしくね」
(車に乗り込む。)
(邪武1コマ。)
(ジュネ1コマ。)
バタン (車のドアが閉まり、)
(走っていく。)
瞬 「行っちゃった…」
(庭を歩く二人。)
瞬 「沙織さんは、クリスマスには帰ってくるって
言ってたよね?」
邪武 「ああ、でもどうだかなァ」「忙しい方だから」
瞬 「ええっ、そんなの困るよ」
「星矢や紫龍や氷河や、
みーんな帰ってくるんだから」
邪武 「………そうだな」
(瞬1コマ。)
瞬 「誰にも何も言わなくていいよ」
「今まで通りにしていれば」
邪武 「……ごめん」
瞬 「ううん」
(快晴の空。)
(グラント・ピアノのある部屋。ピアノを弾く邪武。聴いてい
る瞬。膝の上に猫。)
瞬 ―――焦らなくていいよ
ゆっくりでいいよ
―――僕はいつまでも待っているから
仔猫 「フーッ」 (突然何かに怯え、威嚇する。)
瞬 「イッキ…?」「どうしたの?」
(邪武、何かに気付いて手を止める。)
瞬 「…誰?」
(いつの間にか部屋の中に立っている、甲冑を纏った男
の人影。)
(翼の付いた白金色の鎧を身につけた長髪の青年。穏や
かな微笑みを浮かべている。)
瞬 「あなたは、誰?」
邪武 「い、一体いつの間に…」
青年 (恭しくひざまずいて、邪武に向かって。)
―――お声を聴き、お迎えに参上仕りました
―――貴方様の側近をつとめさせて
いただく者の一人、
アグリボルと申します
(邪武、立ち上がっている。)
(猫を抱いて不安げな表情の瞬。)
イッキ 「フゥ〜〜ッ」
アグリボル 「かつての貴方様のお言葉に従い
こうして顕現いたしました」
邪武 「…?」
「い、いきなり現れて
何ワケのわかんねえ事…」
アグリボル 「ご安心下さい」
「貴方様の神殿へお帰りになれば
すぐに何もかも思い出されることでしょう」
「ご自分が何者であるのかを」
「そして何を成すべきであるのかを―――」
(邪武。当惑しつつも毅然とした表情。)
アグリボル ―――さあ、どうぞこちらへ…
邪武 「…寄るな」
ピーン (故意に鍵盤の一つを叩く邪武の指。)
(部屋の中全景。一見何の変化も起こっていない。)
アグリボル 「何をなさいます」「御自分のお立場を…」
(邪武の方へゆっくり歩いて来る。)
ピシッ (邪武に差し伸べた手が弾かれ、鎧のパーツが一
寸砕け散る。)
アグリボル ―――!?
瞬 ―――音が…
振動する空気が見えない壁をつくっている
邪武 「話だけは聞かせてもらおうか」
「一体何が起きたってんだ?」
「神殿が何だって?」
アグリボル 「アテナの聖闘士として…、ですか?」
「致し方ない、やはり暫くの間
眠って頂きましょう」
(手の平から白い煙が立ち込める。)
(瞬の腕の中の猫。威嚇し続けていたが、)
(突然眠りこけてしまう。)
瞬 「!?」
瞬 「…う」 (強い目眩に襲われる。)
(邪武の周りを白い香気の螺旋状の渦が取り巻く。)
(平然としている邪武。)
瞬 「邪…武……?」
アグリボル 「…!?」
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