(神殿の外。周りは平坦な石畳の庭園が広がり、壮麗な
石の建造物が点在している。その外側にはどこまでも青
空と雲が見えるだけ。)

(庭園を歩く瞬とバールシャミーンの二人。)
バールシャミーン 「アポロン様はあの通り寛大寛容な
             お方だが」
            「この僕までがお前など認めると
             思うのか?」
            「そもそもお前にアテナを裏切る
             度胸があるとも思えんな」

(瞬、俯いたままバールシャミーンを見ない。)

バールシャミーン 「今後ここに置いてもらいたいと
             願うなら、我等に忠誠を誓うなら
             その証しを見せよ」

瞬 「ぼ、僕に…」「僕にどうしろと……」

バールシャミーン ―――殺せ

(瞬1コマ。)

バールシャミーン 「殺せ、先程のペガサスを」
            「そしてアテナを」
            「お前の仲間を、兄弟を」

            ―――殺せ、その手で

(呆然とする瞬。)


(玉座の間。マラクベルとアグリボルは前のまま控えてい
る。)

(竪琴を爪弾くアポロン。)

(アポロンの記憶の中の瞬。)
瞬 ―――自分を嫌いになんてならないで

(再び神殿の外。)
バールシャミーン 「どうした?」
            「まさか、それは出来ぬなどとは
            言うまいな?」

瞬 「…う、うう」「こんな……」
   「こんなことは…初めて…」
   ―――今まで誰も…
        誰かを心の底から憎いと思ったことなんて
        なかったのに―――!!

(竪琴を弾き続けているアポロン。)

瞬 ―――すごく綺麗な音なんだよ

   ―――自分を責めないで

   ―――僕は君が好きだ

   ―――君は何を伝えたいの?

ジュネ ―――他の誰にも、出来なかったことよ

瞬 ―――待ってる…

(アポロン、やはり無表情で、ただ唇が薄っすらと開いて
微かに何か呟く。)


バールシャミーン 「そうか、その眼がお前の返答か」

(ゆっくりと瞬の方に振り返り、)
バールシャミーン 「ならばもう二度とあのお方に
             まみえる事は叶わぬ」

(片手をスッと胸の辺りで構える。)
バールシャミーン ―――目障りだ
                消えて無くなれ

瞬 (実際にはほんの一瞬の思考。)
  ―――できないよ…
      そんなことできるわけない
  ―――傍にいたいのに…
      もう誰だって傷付けられると思ったのに
      答えは決まっているのに
      僕はどうしたいのか
      何が一番大切なのか

  ―――それなのに…
      やっぱりダメだよ僕は…

(力を放出する寸前のバールシャミーンの手。)

瞬 (殺されかかっている事を全く気に留めていない様子。)
  ―――自分のために生きられないのは
      もうイヤなのに

ゴ… (バールシャミーンの足元。地面が振動する。)

(バールシャミーン、手を止め、神殿の方を見る。)

(一見何の変わりもないようなアポロン神殿。)

(が、次第に大きく揺れはじめる。)

瞬 「イヤだよ!!」

(更に地面の揺れが激しくなる。)

瞬 「こんなのもうイヤだ!!」

ゴ… (庭園の石畳に無数の亀裂が生じ、割れはじめる。)

(バールシャミーン1コマ。)

瞬 (両手で耳を塞いで、半狂乱で叫ぶ。)
   「変わりたいのに…!!」
   「変わりたいのに…!!」

バールシャミーン 「!?」

(遠くに見える神殿から強烈な光が溢れ出して、)

ドーン (内部で大きな爆発が起きたように粉砕される。)

バールシャミーン 「なに!?」
(破片がそこまで飛び散ってきている。)

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