(岩山。一面にもやがかかっている。)

(それが次第に晴れていき、岩山に聳える荘厳な石の宮
殿が姿を現す。)

(石の十字架の下から生えて、床をびっしりと埋め尽くして
いる白バラの樹の枝。)

(白バラの花。微かに赤く染まっている。)

(首を項垂れているアフロディーテ。)

(閉じた両目のアップ。)

(青い空。古い石柱の名残が点在する風景。)

(海岸を歩いていく、12〜14歳位のアフロディーテ、シュラ、
デスマスクの三人。)

(ふと足元に目をやるアフロディーテ。)

(地面に落ちている小鳥の死骸。)

(ひざまずいて両手で拾い上げようとするアフロディーテ。)

(無表情のデスマスクのアップ1コマ。)

ガッ (小鳥の死骸を蹴り飛ばす、蟹座の聖衣の足。)

アフロディーテ 「あ…」

(岸壁。激しく波打つ海面。海の方からあおった絵で。海
に落ちていく小鳥。)

ポチャン (海に落ちて見えなくなる。)

(アフロディーテの目線でデスマスクの横顔。)

(不機嫌そうにデスマスクを睨むアフロディーテ。)

デスマスク (全くの無表情で呟く。)
        「…立派な墓だ」

(アフロディーテ、シュラ1コマ。)

サーン (海。くだけ散る白い波。)

(三人の進行方向に、小さな白い花をいっぱい咲かせた
低木がみえる。)

(樹の前で立ち止まって花に手を触れるアフロディーテ。)

デスマスク 「どうした?」「置いて行くぞ」
アフロディーテ 「…ああ」

デスマスク 「まったく、お前という奴は…」

(デスマスクは一人でさっさと行ってしまった。)

アフロディーテ (花に手を触れながら。)
          「泣いてる…」

シュラ 「え?」

アフロディーテ 「みんな知っているんだ…」
          「聖域で起こったこと」
          「ほら、感じないか
           悲しみが大気の中に河を成して
           ゆっくりと海の方へ流れていく」

プチッ (花のついた枝を一本折るアフロディーテの手。)

アフロディーテ 「花は自分が手折られても踏まれても
           決してそのことに対して不愉快に思う
           ことは無い」
          「だけど…」

(アフロディーテ、枝で自分の指に一寸傷を付ける。)

(1コマ、ハッとするシュラ。)

アフロディーテ 「周囲に湧き起る感情を
           共有してしまう…」
          「他者の痛みを自分の痛みとして
           苦しみ嘆くことを避けられないんだよ」

シュラ 「泣いて…いる―――」

アフロディーテ 「みんな泣いているんだね」
          「たとえ口元に笑みを浮かべていても
           悪態をついていても、」

(シュラ1コマ。)

(遠くの方を歩いていくデスマスクの後ろ姿。)
アフロディーテ ―――自分で気付いていなくても

          「私は、間違っていたのかもしれない」
          「世界とは、こんなにも厭わしい
           ものだった」

          ―――力無き者に選べる運命など
               ありはしなかった


(石の十字架に磔にされているアフロディーテ。)

(首を項垂れ、目を閉じている。)

デスマスク 「…まったく、何をやってるんだ
         アフロディーテの奴ぁ」

アイオリア 「まさか、ここには来ていないなんて事は…」

ムウ 「それはないでしょう」
    「きっと、少し離れたところに落ちただけ
     なんですよ…」
アイオリア 「だといいんだが…」

ムウ 「アフロディーテ…」
    「また会えたなら、私はあなたに
     一言詫びたいと思っているのに…」

デスマスク 「オレにも謝れ」
ムウ 「………。」

アイオリア 「もう一度探しに行ってくる」
        「ムウ、お前はここに残…」

デスマスク 「!!」
(アイオリアと一緒に行こうとしていたが、突然立ちすくむ。)

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