(十字架に身体を縛り付けているバラの枝から抜け出よう
と力一杯もがくアフロディーテ。)
アフロディーテ 「くっ」

          「うわ!!」
(至るところから血が噴き出す。)

ペルセポネ 「無駄よ」
        「それは地獄に咲く吸血薔薇」
        「闇の世界に巣食う獰猛な”獣”だわ」
        「その貪欲さとしぶとさにかけては
         どんな化け物も比べ物にならない程よ」

        「あなたの身体を締め付けながら
         その棘でゆっくりと血を吸って、
         白い花弁はやがて真紅に…
         いいえ、漆黒に染まりゆくの」

アフロディーテ 「こんな…」
          「こんなバラなど……」
(まだ抜け出ようともがいている。)

アフロディーテ 「ああ…」
(白い肌と服に血が滲むばかりで、状況は全く変えられな
い。)

ペルセポネ 「クスクスクス…」

アフロディーテ 「うう…」「何故…」
          「一体…何の為にこんな……」

ペルセポネ 「私はゲームを楽しみたいだけ」
        「あなたもせいぜい自分の駒を
         進めることね」
        「人の心を弄ぶのはお得意でしょう?」

        「フフ…冥府の聖なる大甕の中で
         アテナが死ぬのが先か」
        「それとも魔性のバラに血を取られて
         アフロディーテが逝くのが先か…」

アフロディーテ 「な…っ、なんだって!?」
          「た、戦いは…」「女神は…」

ペルセポネ 「ええ、お気の毒様
         まだ続いているわ」
        「ま、私にはどうでも良い事だけど」

        「いいこと教えてあげるわ」
        「ここはアテナのいるエリシオンと
         地続きなのよ」

アフロディーテ 「なに…?」

ペルセポネ 「けれどこの地の呼び名はちがう」
        「タルタロス…」

アフロディーテ 「タルタロス…?」
          「奈落の…底」

ペルセポネ 「そうよ、本当はここが地獄の最深部」
        「世界はウロボロスの蛇メビウスの輪
         始まりも終わりも無く完結しているものよ」

        ―――美しい花が咲き乱れ、川が流れ、
             鳥がさえずる…我が夫が私への
             慰みに与えてくれた箱庭
        ―――私を閉じ込めるための
             綺麗な綺麗な牢獄

アフロディーテ 「牢獄…」
          「それは…私のせいだと…」

ペルセポネ 「…な、なによ」

        「何なのよ、その目は!?」
(持っていた杖でアフロディーテの顔をバシッと打つ。)

(アフロディーテの顔のアップ。額から顎の辺りまで斜めに
大きく斬れて血が流れる。)

ペルセポネ 「みんな…お前のせいじゃないの
         アフロディーテ」
        「大神ゼウスの取り決めも
         永い歳月の間にうやむやに
         なってしまったわ」

        「残ったのは悪い夢だけ」
        「私があのハーデスの
         持ち物の一つであるという
         この現実だけ!!」

        「許さない…」
        「私は許さないわ」

アフロディーテ 「う!!」
(杖の先で顎をぐっと突き上げられる。)

ペルセポネ 「さあ、よぅくご覧なさい」
        「あなたの素敵なお友達が
         一人また一人と、苦しみの内に
         死んでいくその様を―――」

(光の球の中に、木々の映像が現れてくる。)

(霧のたちこめている森の奥。)

(息を切らしながら走ってくる、アイオロスとサガ。)

(アフロディーテ、光の中の映像を見る。)
アフロディーテ ―――!!

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